ブータンの湖水魚蛇型祖先伝承 その1

先日、雲南講話会で小林尚礼さんのメラ・サクテンの信仰に関する講演を拝聴する機会があり、その後、脇田道子さんと3人で会ってさらに話をすることができた。私はメラ・サクテンには行ったことがなく、また伝承とか信仰には疎いのだが、1つには国境関係の歴史を調べており、それにメラ・サクテンの人たちの歴史が密接にかかわってくること、もう1つは昨年のブータン研究会の西田文信さんの講演に触発され、それ以来少数言語と民族分布にすっかはまっていることがあり、「メラ・サクテンの人たちは、いつ、どこから来たのか?」は重要な課題である。

3人の話は多岐にわたったので、当日あまり話せなかったが、小林さんが事前に用意してくれた「確認事項のメモ」には、私自身もずっと疑問に思ってきたこと、これまで調べてきたことである程度説明できるようになったと考えていることも多かった。そこで、具体的に、特にいちばん関心のあるメラ・サクテンの人たちの移住経路*[01] から手をつけて、それはそれでおもしろい発見がいろいろあったのだが、途中で、まず最初に先行研究の整理をしないとやっぱり中途半端になってしまうことにあらためて気がつき、メラ・サクテンの伝承に関連すると思われる先行研究を読み直してみた。

私はブータン各地の祖先伝承は次のように類型化できると考えている

  • 金索降臨型
  • 異類交婚型
  • 貴種流離型
  • 湖水魚蛇型
  • 転生略取型
  • 逃散移民型

よく知られているメラ・サクテンの祖先伝承は、この分類では「逃散移民型」になるが、今回、小林さんから聞いたいろいろな話からすると、特にダンリンに関する伝承は、「湖水魚蛇型」との関連が深く、他の地域のこのタイプの伝承と比較することで理解が深まると思われる。逆に言えば、他地域の「湖水魚蛇型」「貴種流離型」「転生略取型」の祖先伝承に、通過点として、あるいは登場人物としてメラ・サクテンが出てくることもしばしばある。

まず、マイケル・アリスが1973年にソナム・ザンポ師から採取した、ションガルの王(ドゥン)に関する口承伝承*[02] を紹介しよう。ブータンには中部、東部を中心に、チェジェ、ドゥン、ポンポ、アチェ、シェルゴといった称号を世襲する名家が存在し、地域社会の中でも、歴史の登場人物としても大きな役割を果たしてきた。王制化以降、これらの名家は特に法的な立場を与えられておらず、また、それ以前に歴史の闇に消えてしまったものも多いが、中央政府中心の政治史、あるいは宗教史とは別の角度から、ブータンの古代史、中世史を理解していく上には欠かせない概念であるといえよう。

これから紹介する口承も、ツァンラ文化の歴史的中心地の1つであるとされるモンガル南部のションガルのドゥンについて考察する中で資料として挙げているものである。


  1. メラ・サクテンの人たちは、信仰と結び付いた、比較的はっきりとした祖先伝承をもっていることが知られている []
  2. “Bhutan:Eary History of a Himalayan Kingdom”, Michael Aris, 1978 []

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