プンスム・ツォクパを巡って 1

先頃発表された諸橋邦彦さんの論文、「ブータン王国2008年国民議会議員選挙とその制度的特徴」は、原語(ゾンカ)表記を示すワイリー表記*[01] が併記されているという点でも興味深い。ブータンの場合、ブータン国内の情報のかなりの部分が(政府資料も含め)英語文書であるという現実があるため、日本国内で発表される報告の多くも英語文書のみを参照していることが多く、そのことによって語義が伝わらなかったり、不正確な表現となることが多いのは事実だ。個人的にも、その中でもいちばん表面的な日本語カタカナ表記の問題に取り組んで来た。論文の内容自体にも、もちろん注目すべき点がたくさんあるのだが、ちょうど明日、ブータン最高峰ガンカル・プンスムについて何人かで集まって話をすることになっているので、まずはそれと関係する「ドゥク・プンスム・ツォクパ」についての諸橋さんの指摘について考えてみたい。

ブータンの与党ドゥク・プンスム・ツォクパ、いままで日本語では「ブータン調和党」と一般に訳されてきた政党名について、諸橋論文は脚注で以下のように述べている。

日本では一般に「ブータン調和党」との訳語が使用されているが、ゾンカ語の語義に基づき「ブータン圓満党」を使用する。EUEOM op.cit. (9), p.6.も、“Party of Blissful Harmony,”の英訳語を当てており、単なる「調和」の意味とは捉えていないことが明らかである。

「ドゥク」はご存じ「雷龍」でブータンの国号であり、同時に事実上の国教である大乗仏教ドゥク・カギュ派を意味すること、「ツォクパ」が「政党」を意味し、日本語訳として「党」を当てることについては、特に議論の必要はないだろう。問題は「プンスム」である。

諸橋さんの指摘は、要するに「調和」と訳されてきた「プンスム」は「圓満」と訳すべきではないか、という提案だと了解した。しかし、そのロジックにいくつか捕捉説明が必要ではないだろうか。以下、私なりの考察を述べてみる。とはいえ、私はゾンカに関しては「クズザンポー」と「カディンチェラ」しか言えない程度で、チベット語についてはさらにサッパリなので、以下トンデモ論を開陳することになるとは思うが、なにかの議論のきっかけになれば幸いである。


  1. 正確に言うと、ゾンカのワイリー表記はチベット語のワイリー表記とは完全に一致しないため、「ブータン式拡張ワイリー表記」?。ゾンカでも使用しているチベット文字はアルファベットなどと同じく表音文字なので、その表現する母音や子音をそのまま対応する(発音の近い)アルファベットに置き換えることができる。ただし、表音文字であるアルファベットを使っている英語の綴りが、必ずしも発音と対応していないように、表音文字であるからといって発音をそのまま示しているわけではない。 []

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